星のや
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谷の集落 コンセプト

事の始まり

「もっと日本らしさを大切にしながら近代化するルートを歩むことができたなら、私たちの生活や周りの風景はどうなっていたであろうか」という好奇心が、谷の計画のはじまりでした。それは、単に歴史をさかのぼることではありません。思い描く「もう一つの日本」は、この土地独自の価値観、生態系、そして文化を守りながら、時代に合わせた近代化をとげてきた時の空想の姿なのです。
     


   

隔離された集落

この土地は、野鳥の森と星野の丘に挟まれた谷の底を流れる湯川の横に位置しています。90年間の運営を通して多くの顧客の皆様から教えていただいたことは、星野温泉ホテルの魅力の一つは、その場所が外界とは隔絶した別世界の環境にあるということでした。
谷の集落の真中には川が流れ、歩行者は狭い橋で川を渡る。いつも水や森の気配を感じながら歩いて行くと、路地の先に新しい風景が展開する。送迎車は、車一台分がぎりぎり通過できる幅の通路をのろのろと走る。そんなヒューマンスケールな集落をイメージしました。
 


   

EIMY

私たちの生活においてエネルギーの確保は死活問題です。EIMY(Energy In My Yard)とは、生活に必要なエネルギーを自給自足するライフスタイルを指しています。自分が消費するエネルギーは自らの場所の自然エネルギーでまかなう・・・ということの「気持ちよさ」という理由から、エネルギーの自給自足に挑戦しました。
第一は冷房の不要な客室です。軽井沢は真夏でも夜の外気は10℃台まで下がります。断熱や越屋根などを組み合わせ工夫することで、空調設備を機械的に稼働させる時間を大幅に短縮できる予定です。
第二は、化石燃料に依存しない暖房です。地中熱を利用して暖房を行うシステムを導入することで灯油への依存から解放され、エネルギーの自給自足が約80%というレベルの高いエコリゾートになります。
 


温泉旅館道

温泉は日本の文化であり、旅館というリゾートのスタイルは、今でも国内旅行のベストセラーです。しかし、夕食は19時、朝食は8時という設定は、都会に住む顧客にとって不人気であり、時間の拘束の排除は星野温泉ホテル時代の大きな課題の一つでした。
改築を準備中に「温泉旅館としてやり残していることがあるだろう」というお叱りを顧客の皆さんより受けた時、温泉旅館道を極めたいという意欲が湧いてきました。22:04東京駅発の長野新幹線の最終に乗ると、23:30にはチェックイン、それから温泉、そして夕食、翌朝は11:00に起きて朝食、ということが可能な温泉旅館です。
     


   

LOHASな客室

谷の計画において、最も慎重に検討してきた部分は客室であり、LOHASな客室を目指してきました。ロハスとは、Lifestyle of Health & Sustainabilityの略称で、持続可能性という価値観を大切にしながら、心と身体に快適な在り方を目指すライフスタイルを指しています。 便利さを追求することは、温泉旅館での快適さとは限らないと考え、排除すべき機能も慎重に検討しました。例えば、テレビは顧客を都市の生活に引き戻すツールであり、谷の集落には相応しくないという発想から、客室には置かないことにしました。
自然を感じるということも客室の重要な要素です。室内にいながら外界を感じることができるように建物を分棟型にして、窓を2方、3方にとるだけでなく、土地の形状を尊重しながら、室内と外界の中間の領域を設定するという伝統的な日本家屋の手法を見習うことにしました。それぞれの場の特徴を尊重したために、客室のタイプは20を超え、それぞれ魅力的な要素をもつプライベート空間ができあがりました。
 


   

集落での食べ方

もう一つの温泉旅館の課題は、食の選択です。特に連泊していただく場合、2日連続でボリュームのある和食を食べることへの退屈感がありました。星のや 軽井沢では、より幅広い選択肢を提供しています。 集落内の棚田を眺めるダイニングは日本料理のコース、トンボの湯帰りに立ち寄る村民食堂での定食料理、そして軽井沢らしい洗練された洋食を、という時にはNo One’s Recipeを選択していただけますが、何も星野エリア内のレストランに限定する必要もなく、軽井沢なら10泊しても飽きない食文化があると自負しています。
肝心の「日本料理 嘉助」は、集落の中心に位置する集いの館の中にあり、魅力に富んだ“軽井沢の日本料理” を提供します。棚田の脇にせり出した屋外の舞台の先端にはカウンターテーブルが設置され、寒さを心地よく感じることができる時期までは、ここでも食事が楽しめます。時間と選択の自由を100%提供しながら「やはりここで食べたい」と言っていただける魅力を演出して行きたいと考えています。
 


瞑想する光と闇の湯

星のやの内湯はどうあるべきなのか。トンボの湯が一つの完成形であるために、内湯に存在感を与えるのは困難なプロセスとなりました。建築設計の東氏、環境設計の長谷川氏と共に、温泉の価値を再発見する旅に出ました。インドネシア、スイス、フランスのボルドー、そしてアイスランドと歩きまわり、異文化の温泉を経験する中で「瞑想する湯」というコンセプトに出合うことができました。露天風呂という圧倒的な機能を通して自然と融合するトンボの湯に対して、自分自身と対峙し落ち着ける温泉をつくることにしました。それは、私が子供のころに楽しい時にも辛い時にも最も落ち着ける空間として存在していた小さな浴場「明星の湯」の復活でもあるのです。
こうしてできた「メディテイションバス」は、湯船に入って進むと「光の部屋」の中に入り、2方の壁が幻想的に発光し湯面に反射、湯の中に身をおくことで不思議と落ち着ける場所になります。湯船はそのまま通路に続き、次に現れるのは「闇の湯」。心に響く音が鳴る暗く小さな部屋の湯に浸かると、時間はゆっくりと流れるようになるのです。日常を忘れることができるスローな時のながれ、これこそが私が幼少のころに毎日浸かった明星の湯でした。
     

星野佳路 経歴  

星のや軽井沢 総責任者

慶応義塾大学経済学部卒業、米国コーネル大学大学院修了。国内外でホテルプロジェクトに携わり、1991年より株式会社星野リゾート代表取締役社長に就任。エコロジカル・コミュニティというコンセプトで軽井沢を再開発。2001年以降、リゾナーレ、アルツ磐梯、トマムなどのリゾートの再生にも取り組んでいる。
 
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